昨今、働き方の多様化や、インフレによるリスクに備え、副業を検討している人も増加傾向にあります。
今回は、法人の設立というのが何なのか、個人から法人になる場合の目安も併せて、わかりやすく説明していきます。
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起業と法人設立の違い
自分で副業を始め、収入を得るようになり、継続的で、かつ「開業届」を税務署に提出しておくことで、個人として「事業を営んでいる」と言えます。
個人の確定申告で「事業所得」として所得税の申告を行うことになります。
自分で安定的に収入を得るようになり、開業指定からといって会社を作る必要もなく、個人事業主として申告すれば問題ありません。
個人事業主としての規模が大きくなってくると、世間の信頼や節税の観点から「そろそろ会社を作ることも視野に入れて考えようかな?」という話になってきます。
「会社」を作るというのが「法人設立」といって、個人の自分一人のもうけではなく、「法人」という「個人」とは別人のような存在を作って、所得として申告することになります。
「そろそろ会社を作ることも視野に入れて考えようかな?」というタイミングはいつなのでしょうか?
- 利益が800万円以上で所得税を節税したい
- 社会保険料を下げたい
- 消費税申告のボーダーライン内へ
利益が800万円以上で所得税を節税したい
個人から法人になる場合の目安は、一般的に「800万円以上の利益が出れば」と言われています。
節税の観点から「800万円以上の利益が出れば」と言われていますが、厳密には税金だけでなく、個人で支払う国民健康保険料+国民年金の金額と、会社から給与をもらって社会保険料を支払う場合との比較も加味した金額になっています。
厳密にいうと税金だけの比較では有利不利の判定はできませんが、どのような理由で800万円という線引きがされているのか解説します。
個人の所得税は「超過累進課税」といって、だんだん税率が階段式に上がっていくという制度になっています。一番下は5%から始まり、一番上は45%です。所得税の計算は、まず所得(もうけ)から控除(引く分)を引き算して、残った金額(税金がかかる分)に税率を掛け算することになります。
残った金額(税金がかかる分)が多ければ多いほど、税率が高くなるので税を多く払っている、ということになります。
所得税の速算表 | ||
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
例えば、所得が400万円だったとして、控除を集計して80万円になったとすると、「400万円−80万円=320万円」となります。この320万円に税率をかけていくことになります。
はじめは全員5%からスタートですが、所得税の速算表のように、所得税は課税される所得金額が高くなればなるほど、その税率で払う税金が増えていくということになります。課税される所得900万円未満の部分が23%であるのに対して、900万円以上の部分は33%と一気に大きく税率が跳ね上がります。
法人税と所得税
個人の所得税の計算過程を見て、どうすれば税金が安くなるか、わかりましたでしょうか?
「課税される所得(もうけ)−控除」の金額が安くなれば税率も低いところでおさまりますね。
法人税はもうけ分が800万円以下なら15%、800万円を超えた部分は23.2%です。個人の所得税は330万円以上で20%になるので、所得税と法人税だけを比較すると、「もうけが330万円以上で法人の方がお得?」と思うかもしれないですが、、その他にも考慮しなければならない税金があります。
個人なら、所得税の他に住民税10%があるのと同様に、法人も法人住民税があります。地域によってまた儲かった分によって異なりますので判定が必要になりますが、東京都の場合は20%ほどです。
個人と法人の税率の比較 | ||||||
個人 | 法人 | |||||
所得税 | 住民税 | 合計 | 所得税 | 住民税 | 合計 | |
1,000円 | 5% | 10% | 15% | 15% | 20% | 35% |
195万円 | 10% | 10% | 20% | 15% | 20% | 35% |
330万円 | 20% | 10% | 30% | 15% | 20% | 35% |
695万円 | 23% | 10% | 33% | 15% | 20% | 35% |
800万円 | 23% | 10% | 33% | 23.20% | 20% | 43.20% |
900万円 | 33% | 10% | 43% | 23.20% | 20% | 43.20% |
1,800万円 | 40% | 10% | 50% | 23.20% | 20% | 43.20% |
4,000万円 | 45% | 10% | 55% | 23.20% | 20% | 43.20% |
上の表は、税率だけ比較した表になります。税額の計算は一律の税率で掛け算するのではなく、これを過ぎた部分がこの税率になるよという「超過累進課税」を適用します。超過累進課税のボーダーラインのみを表にしているので、厳密にいうとこのような簡単な比較表にはなりません。目安のために一覧表にしただけです。本来なら個別に金額から税額を比較する必要がありますので、誤解しないようにお願いします。
この表からざっくりですが、見ていただくと、もうけが900万円のラインから税率が並び、1800万円以上からは法人がかなり有利になります。この「もうけ」について注意が必要なのは、個人の時は純粋に商売の利益分だけが「もうけ」になりますが、法人の場合はこの利益から自分自身に給与を払って、経費にすることになります。そのため、個人のもうけ分よりも、自分に支払う給与分の利益が少なくなります。
給与以外にも、法人になると、社員のための福利厚生費など計上できる経費も増えます。法人化した場合に経費にできるものには、それぞれ細かくルールがありますので、もし法人化する場合には、必ず経費に計上できるルールを確認してください。
- 個人の時よりも経費に上げられる物が増えて利益が目減りする
- 国民健康保険料+国民年金の金額よりも社会保険料を安く抑えることができる
この2点を踏まえると、個人事業主としてのもうけが800万円を超えたあたりから、法人化した方が節税などのメリットがあると言われているのです。
社会保険料を下げたい
保険料の決め方が、国民健康保険料と健康保険料で大きく違うことはご存じでしたか?
国民健康保険料は、前の年の収入に応じて保険料が決まります。会社の健康保険料は、毎月の給与の金額(厳密には4〜6月の給与で計算する算定基礎で決定)に応じて決まります。これを踏まえて、会社を退職してフリーランスで仕事を始めた場合を考えたみてください。
会社である程度の給与をもらっていると、国民健康保険料がかなりの高額になる可能性があります。会社を辞めて収入が減っているのに、容赦なく前年の所得を基本に国民健康保険料が決まってしまいます。
かなり高額になる国民健康保険料を安くする方法が「法人化」です。法人を設立して、会社から自分に給与を控えめに支払うことで、この給与金額をベースとした社会保険料(健康保険+厚生年金)を収めることになります。
消費税申告のボーダーライン内へ
個人であっても法人であっても、1年間の売り上げが1000万円以上になれば、その2年後から消費税を申告し、納付することになります。
令和3年分の年間売り上げが1000万円以上になると、翌年令和4年のうちに届出などの手続きをして準備しておいて、令和5年分からは消費税の申告をちゃんとして消費税を納めてね、ということになります。
ちゃんと知識があれば、回避する方法もあります。
法人を設立すれば、個人とは別の人格としての取り扱いになります。1年の途中で「今年もうあと少しで1000万円になりそうだな」というタイミングで法人が登場すると、自分ではない「法人」という別人格に売上が計上されることになり、個人分の消費税の手続きを回避できるということになります。
事業内容がいくつかあるなら、個人事業を全て法人にせず、一部を法人化して一部を個人事業として残すことで、その後も売上を2カ所に分けることで継続的に消費税の課税事業者のボーダーラインである1000万円に到達しないようにすることも可能です。
また、一部を個人事業に残しておくことで、青色申告特別控除の65万円を使うことができるので、節税効果もありますよ。
法人化のデメリットとメリット
法人化のデメリット
- 登記が面倒、手数料がかかる
- 住民税均等割が必ずかかる
- 色々な手続きが増える
それぞれ説明していきます。
登記が面倒、手数料がかかる
株式会社で15万円、合同会社でも6万円の印紙を貼って書類を提出する上、手続きの手数料も必要です。司法書士に代行を頼むとさらに報酬を支払うことになります。
住民税均等割は必ずかかる
均等割は、赤字の会社でも毎年必ず支払わなければなりません。地域によっては異なりますが7万円上かかると思っておくといいと思います。
色々な手続きが増える
法人税の申告は個人の確定申告より複雑なので税理士に相談した方がいいでしょう。また、自分に役員報酬を払うということは自分の給与に対する年末調整をしなければなりませんし、社会保険の手続きも自分の会社でやらなければなりません。
法人化のメリット
- 役員報酬から、「給与所得控除額」を引くことができる
- 法人というだけで信頼が得られる
- 赤字(マイナス)になったとき繰越できる期間が10年になる
- 欠損金の繰戻しによる還付もある
まとめ
法人と個人の違いはおわかりいただけましたでしょうか?
今まで、会社がこんなに色々な手続きをしてくれていたのかと勉強になりますが、それだけ手続きが必要であるということは覚悟して始めてください。
違いもわからずにいきなり法人を作らず、ちゃんとデメリットとメリットを理解して「ここぞ!」というタイミングで法人設立をして、晴れて個人事業主から社長へと転身してくださいね。